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(――最悪だ)
街道沿いに立つ地蔵を前に、鉄之助は嘆く。
嘆かれた地蔵も困るだろうが、鉄之助にすればこの先にいい事など全くある気がしなかった。
近道だという道はどう見ても人が歩く道とはいい難い悪路で、本当に近道なのかさえ疑わしい。
一刻ほど前に右だ左だと分かれ道で揉めた相手は、鉄之助の歩に合わせる事もなく前を歩いている。
(辰兄め……)
まんまと辰之助に乗せられてしまった感が拭えないが、おめおめと国友村には戻るわけにもいかない。
鉄之助は、嘆くのを取り越して泣きたくなった。
足は痛いし腹は空くし、ここで熊にでもばったり会ったら逃げ切る自信は鉄之助にはない。
鉄之助は何度か辰之助に置いて行かれそうになりながら、必死にその背を追ったのだった。
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