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「何が馬鹿野郎だ……。人の気も知らねぇくせに!」
文面に筆を走らせながら土方歳三は一人、愚痴っていた。
京に来て数年、土方はまもなく三十路になる。
京は平安遷都より数百年続く王都である。武士政権となり応仁の戦や南北朝分裂なとで揺れたことがあったが、王都としてその与える影響は変わる事はなかった。現在に至るまでの間、新選組もいろいろあった。
二度の政変に池田屋事件、将軍を警護する為に結成された嘗ての浪士組は、今や百を超す大所帯となった。
もちろん京洛は現在でも嘗ての過激攘夷派が何処かに潜んでいるかも知れないし、不逞浪士も闊歩している。以前は土方も自ら巡察や捕縛に動いたが、留守が多い局長・近藤の代理としての指揮命令。更に会津藩公用方の応対にと屯所での仕事が多くなった。
茶を運んでくる隊士はいるにはいたが特に誰と決まって折らず、いつもいる訳ではない。
以前、炊事場へ行けば「何か粗相をしましたでしょうか!?」と真っ青な顔で聞かれた。土方としては茶が欲しかっただけなのだが、突然土方が現れると誤解を生むらしい。
ただ座っていても、廊下を歩いても怖がられる。
鬼となると宣言したのは土方本人だが、損な役回りだと嘆息して前髪を掻き上げた。
「クソガキ……」
土方は怒るとつい、言葉が乱暴になる。
故郷・武州多摩では『バラガキ』と呼ばれて暴れていた頃の癖は、なかなか抜けてはくれない。
「今度何かやらかしたら、ただじゃおかねぇ……。ふんっ、鬼副長で結構!」
怒りのまま筆を降ろせば、文字とは言い難い造形が出来た。
両長召抱人という役職ができる以前は、土方の部屋に平隊士がやって来る事は滅多になかった。彼の部屋にやって来る人間と言えば、局長の近藤に十の小隊を率いる各組長、そして新選組の裏の裏と呼ばれる監察の人間である。
両長召抱人という役職を作ろうと言いだしたのは、近藤だった。
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