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「両長召抱人?」
「お互い忙しい身だ。身の回りの世話をする隊士が必要かと思うんだが」
「あんたはいいとしても、俺には必要ねぇよ。先の政変(※蛤御門の変のこと)からこの京は少しは静かになったが、まだ油断はできん。これ以上の面倒事はたくさんだぜ」
だが最終決定権は、局長である近藤にある。
そんな新選組に、新選組に入りたいと鉄之助は兄と共にやって来た。
美濃大垣藩の出だが、何でも大垣藩士だった父が藩から放逐されて、以後は浪士となったという。
辰之助の方は二十歳を過ぎていたが、鉄之助の方はまだ元服前だ。まつ毛が長く目がぱっちりとし、中性的且つ愛嬌のある顔立ちをしていた。ただ物珍しげにきょろきょろと、全く落ち着きがない。
新選組に入るには浪士だろうと町人だろうと腕に多少の自信があればいいが、ここは死と隣り合わせの新選組なのだ。
僅かな不注意が、命取りになる。
追い返そう――、土方はそう思った。
ところがである。
「トシ、どうだろうか? 彼を両長召抱人とするのは」
「はぁ?」
局長・近藤勇の言葉に、土方は語尾を上げた。
「近藤さん、ちょっと待て。まさか、こいつを俺に寄越すのか?」
土方のいう《こいつ》とは鉄之助の事だが、近藤は土方の心中など知るはずもなくと笑っている。
近藤とは長い付き合いになる土方だが、近藤は来る者拒まずを地で行く男だった。
頼ってこられると嬉しいのは土方も理解るが、近藤という男は偶に曲者も招く。
「これでお前の仕事も楽になるな、トシ。良かったな」
土方としては全く良くないのだが、こうして鉄之助は土方の所にやって来た。
それから数日経って鉄之助は土方の危惧した通り小さななドジを踏み、怒鳴れば目を潤ませて見つめ返してくる。
唯でさえ多忙だというのに、土方は子供の相手はしたくはなかった。だが、近藤に「よろしくやってくれ」と言われれば「否」とも言えず、鬱憤が増す一方である。
鉄之助がやって来る以前、土方にはこれまで三人ほど両長召抱人が付いたことがあった。
しかし三日もせずに逃げ出して、今度も逃げ出すだろうと土方は思った。
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