紫陽花の甘露に黒猫の溜息

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 速くなる拍動。荒くなる吐息。呼応するように締め付けられる頭が、蕩けかけた意識を蹴散らし始めているが、まだ、熱を与えられれば誤魔化せる。 「……穂、咲、早く」  とうとう紫苑は、最後の言葉で求めた。  求めたのに、穂咲は訝し気に瞳を細めて、こちらを探る様な視線を向ける。 「紫苑……? 大丈夫か?」 「ん…っ、なに、穂咲」  そして、スッと指を引き抜かれた。  本来ならそのまま、穂咲が紫苑の中を満たしてくれるはずだった。しかし穂咲はこちらを見下ろしたまま動かず、指で長く穿たれていた紫苑の最奥は、名残惜しそうに一度、ヒクリと窄まったが、それっきりだった。 「お前、体調悪いなら、そう言えよ」  いつに無く低い声が上から降ってくる。  ――気付い……。  ハッと視線を向けると、小さな嘆息が彼の口から零れた。 「穂咲」 「寝てろ」  そう言い残して穂咲はベッドを降り、寝室を出て行った。  勝手知ったる恋人の部屋とでもいう様に、カタコトと物音を立てているから、そのまま帰ってしまったわけではないのだろう。  自室といえど、ポツリと一人、ベッドに残されるのは寂しい。  それもたった今まで、致している最中だったのだ。  ものの数分で、洗面器とタオルを持った穂咲が戻ってくる。  穂咲の姿に自身の中に湧いた寂しさの影は消えたが、眉間の皺も消せないほど、紫苑の頭痛は酷くなっていた。
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