82人が本棚に入れています
本棚に追加
速くなる拍動。荒くなる吐息。呼応するように締め付けられる頭が、蕩けかけた意識を蹴散らし始めているが、まだ、熱を与えられれば誤魔化せる。
「……穂、咲、早く」
とうとう紫苑は、最後の言葉で求めた。
求めたのに、穂咲は訝し気に瞳を細めて、こちらを探る様な視線を向ける。
「紫苑……? 大丈夫か?」
「ん…っ、なに、穂咲」
そして、スッと指を引き抜かれた。
本来ならそのまま、穂咲が紫苑の中を満たしてくれるはずだった。しかし穂咲はこちらを見下ろしたまま動かず、指で長く穿たれていた紫苑の最奥は、名残惜しそうに一度、ヒクリと窄まったが、それっきりだった。
「お前、体調悪いなら、そう言えよ」
いつに無く低い声が上から降ってくる。
――気付い……。
ハッと視線を向けると、小さな嘆息が彼の口から零れた。
「穂咲」
「寝てろ」
そう言い残して穂咲はベッドを降り、寝室を出て行った。
勝手知ったる恋人の部屋とでもいう様に、カタコトと物音を立てているから、そのまま帰ってしまったわけではないのだろう。
自室といえど、ポツリと一人、ベッドに残されるのは寂しい。
それもたった今まで、致している最中だったのだ。
ものの数分で、洗面器とタオルを持った穂咲が戻ってくる。
穂咲の姿に自身の中に湧いた寂しさの影は消えたが、眉間の皺も消せないほど、紫苑の頭痛は酷くなっていた。
最初のコメントを投稿しよう!