ソファー

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ソファー

「腰痛ぇ……」  ソファーで寝ていた透哉(とうや)が身体を起こす。 「ソファーだからな」  当たり前だよ、と言わんばかりに本を読んでいた真矢(しんや)が答えた。  部室にはデスクは二人分あるが、透哉は殆どデスクを使わずにソファーに座っていた。そして時折昼寝をしている。  また、夜帰宅せずに部室に泊り、その際もソファーに寝ていた。  逆に真矢はゲームをプレイする時くらいしかソファーを使っていない。 「なあ、共同出資で買い替えないか?」  透哉の提案だった。  そのソファーは代々部員たちが使ってきたものだが、流石に老朽化の顔色が見え始めていた。  おまけに硬く、180センチを超える長身の透哉が寝るには小さかった。 「確かに。そろそろ買い換えても良い頃かもな」  ちなみにこの部は同好会なので、雀の涙ほどしか予算は出ておらず、備品を買う際はほぼ自腹となっている。  真矢は今まで読んでいた本を置き、ノートパソコンのキーボードをカタカタと素早くタッチした。 「ふむ」  ノートパソコンを持ち上げ、透哉の隣に移動しソファーに座った。 「流石に種類が多いな」  ディスプレイには大量のソファーの写真が表示されている。 「うわ、すげえ」  透哉が驚きの声を上げディスプレイを覗き込む。  ガーリーなもの、キャラクターを模したもの、近未来なもの、奇抜なもの、ベーシックなもの。  色とりどり、実に様々なソファーが存在していた。  画面をスライドさせながら、二人の瞳が輝く。 「お、これ良くね?」  透哉が指さしたそのソファーは、シックだが丸みを帯びたデザインが温かみを感じさせ、色艶の良い素材は写真からでも手触りが伝わってくるようだった。 「サイズも大きくて、二人でも余裕で座れそうだな」  L字型だが、人が一人寝るのにも十分な長さがある。 「これにするか」 「そうだな」  二人は判断が早い。  良い、と思ったら迷わない性格だ。  しかし、二人は重要な項目を見落としていた。 「あ、値段……」  先に気づいたのは真矢だった。 「な、七十万……」  共同出資、一人半額ずつだとしても学生の身で三十五万円ずつはかなり大きな出費だった。 「今のソファーでも十分だな」 「なー。やっぱりモノは大切にしなきゃなー」
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