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「いいか、一つアドバイスをしてやろう」
七詞が急な真面目な顔でそう言い出す。
「あひるちゃん、君は時間を無駄使いしている」
「はぁ?私がですか!?」
ソファーに深く腰を沈め、二杯目の酒を飲みながら、向こうの方で踊る露出の多い女の身体を眺めニヤけている男には決して言われたくない言葉だった。
「あなたに言われても、まるで説得力がありませんが」
「そうか?」
七詞は私の顔を覗き込む。皺の刻まれた顔。口角がだらしなく吊り上がった口。一見からすればただのエロ親父だが、2つの黒く染まった眼は、私のことをじっと捉えていた。
「君は物事を必要あるものか、はたまた無いものか主観的、合理的に判断し過ぎだ。酒を飲んで、踊って、ソファーに座ってくつろいで、ゆっくり辺りを見回す。そうすることで初めて知ることができることもある。特に初めて訪れた場所や"国"ではな」
七詞はそこまで言って二杯目の酒を一気に飲み干した。
「効率というものは、ときに想像力を殺す…そんなところさ」
私だって馬鹿じゃ無い。七詞の言おうとすることは理解できた。でも反論だってある。
「ですが、今はいつ"それ"が行われるか分からない状況です。悠長にしている時間はありません。あなたの大切にしているその"想像する時間というものが、誰かを殺す"かもしれないのですよ」
「うーん、なるどねぇー、よく言うじゃないか」
七詞は頭良さそうに髭を撫でる。
「まぁでも確かにそれは一理ある。では、あひるちゃんがそこまで言うなら、面倒だが、そろそろ説明してあげようじゃないか。では、ここに」
そう言って七詞は、自分が座るソファーの隣をポンポンと二回叩く。ここに座れという合図らしい。
「いえ、いいです」
即答する。七詞の隣に座るなんて考えただけでもゾッとした。
「つれないねぇー。説明なんて退屈だから、あひるちゃんのお尻でも触りながらしようと思ってたんだどねぇー」
「殺しますよ」
「ニヒヒ…冗談冗談」
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