【ミラーボール共和国】

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「甘いもんはいいぞ、なんたって頭がリフレッシュするからな」 七詞は子供みたいにはしゃいだ顔をする。それが私の神経を余計に逆撫でる。 「それにほら、見なよこれ!グレートなグレープ味だって、他にもカップルのアップル味とか、お!これなんかいいじゃないか俺ん家のオレンジ味」 「いりません」 私ははっきりそう言って、話を戻すように七詞に伝えた。 いかにもオヤジが好きそうなギャクに付き合ってはいられなかった。 「あひるちゃんは冷たいねぇ」 「仕事中ですから」 「はいはい…まあ話を戻すとだ。今回俺たちがこの国、この場所に来たのはうちの組織の調査員が、ここクラブ「ガルニエ」で世界共通規則が破られていることを確認したからだ」 「つまり"殺人"が行われていると」 「その通り、大正解」 「一体どんな殺人が…」 私がそこまで言った時だった。会場中に狂ったような歓声が一気に沸いた。 声の中心に視線を向けると、会場の奥に設置された人の背丈ほどある高さのステージ上に一人の男が登場するところであった。 その男はポマードを撫でつけたオールバックの髪に、ド派手な真っ赤なスーツ。片手にはマイクを握り、その小指がピンと立って、頭上のミラーボールが男のことを煌々と照らしていた。 『Yeaaaaaaa!!「ガルニエ」に集まりしパリーピーポォォオオオ!!盛り上がっているかぁあああ!!』 真っ赤なスーツの男の言葉に応じるように、会場が喚声を上げる。まるで獣のようだった。 『なになに?まだまだ今夜の熱狂は足りてないぞ!胃袋にありったけのガソリンを詰め込んで踊り狂ってやろうじゃないかぁあああ!!』 そこでまた喚声。あまりの煩さに会場が振動する。 『お前ら良い感じだぜ、最高だぜぇえええ!!本日のファントムナイトの司会を務める俺が"MCディスコ"だぁああああ!!』 "MCディスコ""と名乗る男にスポットライトが向けられ、彼が何かを発するたびに、会場の若者たちは爆弾が爆発したかのように歓喜する。 それはあまりに異様な光景だった。 『さぁさぁお前たち、今の時刻は23時30分、待ちわびたファントムナイトの時間まであと30分だぁあああ!!』 「あひるちゃん、確か一体どんな殺人が…っていう質問だったっけ。それはな、お喋りな彼の口から説明してくれるはずさ」 七詞は二つ目のグラスの中のお酒を一口で飲み干した。 「あぁ強い酒だこと」 顔は強いアルコールにやられてか、苦い顔をしているが、その眼光は冷たくステージの上の男を見ているように見えた。 「あひるちゃん、よく見ておくんだ。これがこの国の常識ってもんさ」 いつになく真面目な口調でそういった七詞の言葉に私は少しの違和感を覚えつつも、その違和感は狂気の喚声によって直ぐにかき消されていった。
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