02 死んだはずの男

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「お前のことは、もうとっくにあきらめていたところだ。まったく、惜しい男を亡くしたもんだと思っていたが、まさか誤報とはな」  定吉は腕を組み、やれやれといった風に顎を掻いた。 「遺骨もないまま葬式を上げて、立派な墓まで作っちまった。落ち着いたら、墓地に行って見てみろ」 「そうでしたか……ご面倒をおかけして、申し訳ありません」 「謝るな。お前の落ち度じゃねえんだ。それよりも、よく生きて帰ってきてくれた」 「あっしも、再びお目にかかれて何よりです。どうかまた、この組で可愛がってやってください」 「もちろん、そのつもりだ。お前さんにやってもらいたい仕事は、山ほどあるんだ」  定吉はニッと口角を上げると、辰治の手を取った。  辰治も笑顔を浮かべ、両手で定吉の手を包み込む。しわがれた手が温かい。ようやく吉松組に帰ってきた――そんな感慨に浸りながら、二人で固い握手を交わした。    しかし、そんな笑顔の時間は束の間だった。   「ところで、辰よ」 「ハイ」 「八重子(やえこ)のことだが――」 『八重子』と、その名を口にした途端に、定吉の表情が曇る。  はて、と思ったその時、玄関の方が騒がしくなった。 「アニキ!」  座敷のふすまが勢いよく開いて、パンッと乾いた音を立てる。  振り返ると、隻眼の男――辰治の弟分の寛二が、肩で息をしながら立っていた。 「……辰治さん」  寛二の後ろから、しとやかな女の声が続く。その懐かしい響きに、心臓がドキンと高鳴る。    寛二に続いておずおずと姿を現したのは、定吉親分の実の娘である、八重子だった。
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