02 死んだはずの男

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 数年越しの再会に、胸が熱くなる。感激のあまり言葉がうまく出てこない。辰治はただ微笑みをたたえて、ゆっくりと立ち上がった。  寛二は、若い衆の中でも特に親しい兄弟分だった。辰治は、実の兄弟を亡くしている。今では寛二が、大事な弟のような存在だ。  そして八重子――彼女は、辰治が将来を誓った女性でもある。『戦争から無事に帰ってきたら、その時は一緒になろう』と約束した。定吉親分や組の者たちも祝福してくれた仲だった。 「寛二……八重さん」  やっとの思いでその名を呼んだ。  八重子の目が潤んで光る。信じられない――そう言いたげに、辰治を見つめている。艷やかな唇が震え、言葉を紡いだ。 「無事だったの……? 幽霊じゃないのね……」 「ええ。この通り、帰ってきました」 「辰治さん、ごめんなさい。私……あなたはもう、死んでしまったものだとばかり……」  八重子はそう言ったきり、押し黙った。涙で潤んだ瞳を伏せ、藤色の着物の袖で隠してしまう。  ――妙だった。その態度は重く沈んでいて、辰治との再会を素直に喜んでいるようには、とても見えない。その隣に立つ寛二も、ただ唇を噛み締めて俯くばかりだ。  辰治は動揺しながら、二人の側にゆっくりと歩み寄った。 「おいおい、せっかく帰ってきたんだぜ。二人共、どうしてそんな顔をしてるんだ」  そう問いかけたが、寛二も八重子も口をつぐんで答えない。  間を置いて、背後から定吉が「辰よ」と静かに声をかけた。   「八重子は半年前に、寛二と夫婦(めおと)になった。俺もお前が死んだと知って、この組の跡目は寛二に継がせる気でいた」
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