02 死んだはずの男

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 気が付けば他の若い衆たちも、神妙な面持ちで、遠巻きにこちらの様子をうかがっている。その何人かは、辰治たち3人の友情にもらい泣きをしたのか、目を赤くしているのが見える。  背後で、定吉親分が立ち上がる気配がした。 「辰よ。事情は変わっちまったが、お前さんが生きて帰ってくれたことは、本当に嬉しく思っているぞ」 「ありがとうございます」 「当面の生活については心配するな。まずはしばらくの間、ゆっくり休んで、そのやつれた体をいたわるんだな」   定吉は辰治の側まで来ると、励ますように、ぽんと背中を叩いた。  辰治はまた深々と頭を下げて、定吉に感謝の意を示した。  ふと、駅前の光景を思い出す。戦火により家を焼け出され、住む場所にも食うものにも困っている人間を、たくさん見てきた。そんな中、こうして支えになってくれる人間がいるのだ。こんなにありがたいことはないだろう。  辰治は心の中で、吉松組への忠誠心を新たにした。  しかしその一方で、やはりどこか虚しい思いも消えなかった。  死に損なった自分の居場所。それが今、本当にここにあるのだろうか――頭の片隅に浮かんでくる疑念を、辰治は必死に振り払った。
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