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四畳半の真ん中に敷かれた、せんべい布団。その枕元に、ゆらゆらと火の揺れる石油ランプが静かに置かれる。部屋の隅には、ほんの小さな棚と衣装箱がひとつ。それから壁に、ちゃぶ台が立てかけられている。必要最低限のものだけしか無いような、質素な部屋だった。
「どうぞ、こちらに」
「……」
軽く会釈して、辰治も下駄を脱ぐ。
ありあわせのもので建てたバラックなのだろう。歩く度に、足の裏の畳が大きく沈んだ。
「かび臭いですか」
男が気まずそうに微笑んでくる。
辰治は「いや」と首を横に振って、布団を挟んだ向かい側にあぐらをかいた。
「暁です」
男は畳に手をついて、そう自己紹介した。
暁――その名を頭の中で何度も繰り返しながら、辰治も同じように手をついて、頭を下げる。
「……辰治です」
先程から、胸の鼓動がやけに激しい。恩人との再会が、まさかこういう形になるとは思わなかった。
辰治はゆっくりと顔を上げた。ついでに、上目遣いに暁の様子を見る。
石油ランプの明かりが、その姿を橙色に照らしている。同じ男でも思わず惹きつけられるような、独特の色香を放つ美しい顔立ち。そんな美男を、金で買った――辰治の腹の底に、今までに感じたことのない背徳的な興奮が、ふつふつと沸き始めていた。
「男を相手にするのは初めてですか?」
そう問われ、素直に頷く。緊張感が伝わってしまったのだろうか。辰治は手のひらに滲んだ汗を、そっと着物の膝で拭いた。
「どうしなさいますか。もし気が引けるんなら、手だけにしておきましょうか」
「……」
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