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「辰、これを見ろ」
座敷に上がるなり、神妙な顔で手招きされた。
定吉親分は仏壇の上から一枚の紙を取り出し、辰治に差し出してくる。
手に取り見てみると、紙には『死亡告知書』と書いてある。戦地に赴いた者が戦死したことを知らせる公報だ。
辰治を含め、何人かの若い衆が兵隊に取られていた。おそらく、そのうちの誰かが戦死したのだろう。
沈んだ気持ちで、紙面に目を通す。しかしそこに記されている内容は、辰治の予想を大きく越えたものだった。
『陸軍一等兵 進藤辰治
右は昭和十九年五月七日 セレベス島沖で戦死せられましたのでお知らせします』
思わず目を擦った。しかし、擦ったところで何かが変わるわけでもない。
そこにあるのは、どこからどう見ても辰治自身の名前だった。
背筋がぞくりと震える。まるで自分が、幽霊にでもなってしまったかのような、気味の悪さがこみ上げてきた。
「これは……誤報です」
「だろうな」
定吉も頭を抱え、ため息をついている。
もう一度紙面に目を落とした。セレベス島沖――思い返してみると、心当たりはある。
輸送船が魚雷で沈められて、海に投げ出されたことがあった。南方へ向かう途中のことだ。その時は何時間も漂流し、何人もの戦友と死に別れた。しかし生き残った兵隊は、運良く海軍の船に救助されたのだ。
辰治はもちろん、生き残った者の一人だったが――もしかすると、その時に何かの手違いで、こうして死亡告知書が送られてしまったのかもしれない。
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