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僕と彼女とその経緯
夕方から夜に変わりゆくオフィスでは、キーボードを叩く音がかれこれ二時間ほど続いている。定時が間近に迫り、僕は入力作業をとても急いでいた。
地道な仕事もようやく終わりが見えて気が緩んできたころ、事故は起こった。
「あ……っ、固まった!」
パソコンがいきなりフリーズしたのだ。続けてアプリケーションが強制終了し、僕も一緒にフリーズした。
「あれ、最後に保存したのいつだっけ……?」
作業に没頭していて、一度も保存した記憶がない。
神に祈る気持ちで再度アプリケーションを起動し、ファイルを開くと、僕の二時間の努力は綺麗さっぱり失われていた。
「まじか……」
時計の針は十七時五十分を指している。十分でなんて、終わるわけがない。
絶望に追い打ちをかけるようにスマホが着信を告げた。
『仕事終わりそう?』
大好きな彼女からのメッセージ。
つい三分前までは、意気揚々と『しっかり終わらせました!』なんて成長をアピールするつもりでいた。
『すみません。ちょっとミスしちゃって、残業になりそうです……』
情けなさに震える指で画面をタップする。
間をおかずに届いたメッセージを見て、僕はがっくりと肩を落とした。
『それは仕方ないね。残業頑張って。お店はキャンセルしとく』
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