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とはいえ頼子さんは、なんでもできるうえに綺麗で穏やかでと非の打ちどころのないお人。好意を抱いている男は他にもたくさんいた。しかし、よほど親しい友人でもない限り誰にでも分け隔てない態度はかえって踏み込みにくく、想いを寄せる男性陣はそろいもそろって攻めあぐねている状況だった。
そんな中、女神は僕に微笑んだ。転換点は、入社以来の大失敗で一人落ち込んでいる現場を彼女に目撃されたこと。
恋に落ちたときもこのときも、そして今でも、頼子さんにはダメなところばかり見られてしまう。でも、このときはまだ男としての見栄がかなり残っていたので、とても恥ずかしかった。
そういう心情を頼子さんも察していたのだろう。初めは気づかない素振りで立ち去ろうとしてくれたみたいだ。けれど、その前に僕と目が合ってしまったのがまた間が悪かった。
彼女は瞬時に方針を切り替えて「大丈夫?」と優しく労わってくれた。僕は「あ、はい」とつい返事をしたけれど、実際のところ全く大丈夫ではなかった。
頼子さんは少し困った顔で「本当に?」と首を傾げた。
「なにか吐き出したいことがあったら聞こうか?」
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