秘密 1

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秘密 1

 それから、僕たちは……少なくとも僕は、谷口とのセックスに溺れた。  学校で、それも生徒とそんなことをするようになるとは思ってもみなかったことだし、許されることではない。  誰かに知られたら懲戒免職も免れないだろう。  しかしそういった背徳感がより一層の快楽をもたらしていることも確かだった。  職員室に向かう途中で谷口とすれ違うことがある。  特に挨拶をするわけでもなく、ただ軽く会釈をして通りすぎるのだが、一瞬眼鏡の向こうの瞳が細められ目尻が少し下がる。  そんなことがあった日は必ずと言っていいほど、放課後に谷口が訪れてくる。  職員室の側ですれ違った今日も、やはり谷口はやって来た。 「ねえ、先生」  勉強道具を机に出してから、そう時間は経っていない。 「少しは集中すれば?」 「うーん、ちょっと、乗ってこない」  首を傾げて唇を尖らせた表情は、少し子どもっぽく見えた。 「受験生のくせに」 「だから気晴らしに、しよ?」 「……谷口」  制止するように言ってはみるが、谷口を拒絶することはしない。  ……僕には拒絶などできなかった。 「なんか、そういう気分なの」  と、立ち上がりながらブレザーのボタンを外す。  リボンタイを外しブラウスの襟元を広げて、僕のそばに近づいた。 「先生」  僕は返事はせずに、黙ってそこに手を伸ばす。  ブラウスの上から柔らかな膨らみを手のひらで包み触れると、谷口は小さく吐息を洩らした。  そのまま先端を探り指先で摘む。  びくんと身体を震わせる谷口の顔を覗くと、目を閉じてうっとりとその感触を愉しんでいるような表情に見えた。 「気持ちいい?」 「うん、いい……もっと、欲しくなる」  その言葉に僕は思わず手に力が籠り強く乳房を揉み出すと、谷口は堪らず甘い声を上げた。  ブラウスのボタンを腹まで外し、大きく開く。  年齢のわりにやや大きめであろう胸元をさらけ出し、背中に手を入れてブラのホックを外した。  そこに隠れていた滑らかな肌に直に触れる。  谷口が僕の首に腕を回し、跨るようにして僕の膝の上に乗り、僕はその腰を抱き寄せた。  制服の上から触れた腰回りは思いのほか細く感じる。  谷口が寄り掛かると座っていた事務椅子がギシッと音を立てた。 「ねえ、後ろからして?」  僕の手がスカートの中へと伸びた時に谷口が言った。 「そういうのが好み?」 「そうじゃなくて、したことないから」  と、目尻を下げた笑顔を見せた谷口は立ち上がって机に手をついた。  後から僕も立ち上がり、身体を密着させるように谷口の腰を抱く。 「……先生って、思ったよりえっち」  谷口はそう笑って、自分でスカートを捲りあげる。 「お前ほどじゃないよ」  僕がそう言うと谷口はくすくすと笑い声を立てた。  僕の指先はただ谷口の濡れた場所を目指して肌の上を滑っていく。  ショーツの上辺から躊躇することなく指を挿し入れ、そのまま奥を目指す。  たどり着いたその場所は思った通りにとろとろと熱い蜜が溢れていた。 「……断った方が良かった?」  深くまで指を挿入して、溢れ出る愛液を手のひらにまで感じる。  谷口は熱っぽいため息を洩らしながら首を横に振った。 「ううん、女の子から誘って断られたらがっかりだもん」  反対の手でショーツを下ろし、突き出された尻を撫でまわす。 「ね……もう、挿れて……」  ほんのりと頬を染め、とろんとした目つきで振り向いて懇願されると、僕は断るすべもなくベルトを外し自分自身に準備を施す。  その間に谷口はまた眼鏡を指先で上げた。  ゆっくり深く身体を繋ぎ合わせると、くすくすと笑う声が喘ぎ声に変わる。  肌蹴たブラウスの胸元に後ろから手を入れ、膨らみを揉む。  うっすらと汗ばんだ滑らかな肌が手のひらに吸いつくようだ。  谷口の感じやすい部分もわかってきた。  前後に腰を動かしながら胸の先端を指先で少し強く摘むと、せつなげな叫び声を上げ、僕を深く咥え込んだ部分がきつく吸いつくように締めつける。 「後ろ……けっこう、好きかも」 「マゾっ気あるかもな」 「ん……先生は?」 「少なくともマゾっ気はないと思うけど」 「でも、こんな…学校で、生徒とセックスするとか……危ないことするのは、マゾじゃないの?」 「またそんな生意気なことを言って……いいと思ってる?」  少し力を込めて、深く貫く。 「っああ……!」  谷口の腰を掴んで前後に揺さぶった。  上半身が崩れ落ち、机にうつ伏せになる。 「すっ…ごい……いい…っ……」  ふるふると身体が震えるのは、上り詰める合図だ。 「いくぅ……いっちゃう……!」  びくんと谷口の背中が跳ねた。  絞り取るかのような内壁の動きに、僕の我慢も限界に達する。  谷口の奥深くを突き上げ、脈打つ熱を放出した。  後始末をしてから、僕の椅子にぐったりと力なく座っている谷口に話しかけた。 「こんなことしてて、勉強は大丈夫なのか?」  毎回こうしているわけではないけれど、少し心配になる。 「大丈夫だよ。わたし、けっこう成績いいの」  着乱れた制服を直して、やはり眼鏡を指先で上げる。  制服を着こんでしまえば、つい先程まで男に組み敷かれて喘ぎ声を出していたなんて想像もつかない、真面目そうで少し地味な雰囲気に戻った。 「自分で言うなよ」 「ほんとだってば。この前の模試でもA判定だったんだから」  少し得意げな表情を見せる、こんな顔は本当に普通の高校生だ。 「へえ……それならもう少し上を目指してみれば?」 「ん、家から通える範囲の大学にしたいから……」  市内の私立大学を志望しているという話をしたことがある。  私大を志望しているくらいだから、経済的な理由ではないのだろう。 「一人暮らしは心配なんだって。まあ、どうしても遠い大学に行きたいっていうほどの気持ちもないし」  と、肩をすくめた。 「女の子だとそういう家も多いよな」  今は担任を持ってはいないけど、進路指導の際にはそんな理由が親と生徒で意見の食い違いになって揉めたりすることもあるようだ。 「なんとなく、英語は好きだし得意だから英文科行こうかなあってくらいで。その先はまだ考えてないの」  まだ下校時刻までは時間があるため、谷口はもう一度向かいの席に座って参考書を開いた。 「高校生はそんなもんだよ」 「先生は? 音大だったんでしょ?」 「まあな。でもそんなに上手いわけでもないし、それで食ってくにはちょっとなって思ってさ」 「歌? 楽器?」 「ピアノ」 「へえー、上手いんだ?」 「普通だよ」  子どもの頃から大学まではずっとレッスンを受けていた。  ある程度は弾くことはできる。  だからと言って演奏家として生活できるほどとは思えずに高校教諭の道を選んだ。 「ね、弾いてみせて」 「え……今?」 「うん。ダメ?」  首を傾げて甘えるような表情で微笑む。  そのわざとらしいあざとさすら感じさせる表情に苦笑しつつ、 「……じゃあ、おいで」  僕が立ち上がると、嬉しそうに後ろについてきた。
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