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秘密 4
「ね、露骨でしょ?」
彼女たちの話し声が遠のいてから、そう言って笑った。
「まあ……今まで気がつかなかったけど」
首筋を掻いて首をひねると、谷口は面白そうに笑い声を上げた。
「先生ちょっと鈍い」
「うるさい」
「先生、うちの学校では若い方だし、モテるんじゃないの?」
「さあ、自分では全然、思ってないけど。そもそも生徒なんてそんなふうに見てないし」
正直なところ、本当にそんなことを意識したこともなくて、しかし言われてみれば心当たりもないわけでもない。
かと言って彼女に対しては、特別な感情などは全くなかった。
「じゃあ、わたしに欲情したのはたまたまなんだ?」
谷口に対しては、……どうなんだろう。
自分でもよくわからなかった。
「……興味と現実逃避のためにセックスしてるくせに」
僕は谷口の質問には答えずに立ち上がり、ドアの鍵をかけた。
かちりと言う金属音がやけに響いて聞こえる。
「そうだよ、それと性欲処理?」
電灯を消し、谷口の側に近づく。
とりあえず今は同じようなことを感じているらしい。
そこには恋愛感情なんてものは存在しない。
ただお互いの身体を求めるだけ。
谷口は椅子をくるりと回して、こちらを向いた。
少し子どもっぽいピンク色のセルフレームに縁取られた瞳は、それとは似つかわしくないほどの女の瞳をしている。
その瞳に、唇に、声に。
僕は惹きつけられ、囚われて抗えない。
全ての衝動は谷口の手の中のような気がした。
「性欲あるんだ?」
「思春期だからね」
しゅる、と衣擦れの音を立ててリボンタイが外された。
ボタンを外すその襟元に遠慮なく手を差し入れ、柔らかい膨らみを手のひらで包む。
指先で先端を探り当て、すでにつんと固くなったそこを摘み、捏ねた。
谷口はうっとりと目を閉じて、熱っぽい呼吸をする。
立ち上がらせた谷口の腰から尻を撫で、スカートの中に手を入れた。
「濡れてる」
ショーツの中心部がしっとりと湿り気を帯びていた。
「先生もでしょ?」
身体を密着させたせいで、僕の熱が谷口にも伝わるようだ。
血液が一か所に集中してじんじんと熱い。
「キスして、興奮した?」
谷口は少し背伸びをして、唇が触れ合う寸前の距離で囁く。
口元にほんの少し感じられる吐息が、先程のキスを思い起こさせる。
「谷口は?」
「わたしは、興奮したよ。みんな隣にいるんだもん」
と、身体を寄せる。
「だから早く……もっと、ほしいの」
「……じゃあ、こっち」
僕がソファに座り、その上にニットセーターを脱いだだけの谷口が跨る。
まだ服も下着も身につけたままだったが、谷口は股間を擦りつけるように腰を擦り付けた。
「先生……」
「まだ、時間はあるぞ」
明かりを消してもまだ暗いとは感じない、そんな時間だ。
尻を撫でながら、指先を中心にゆっくりと近づける。
反対の手はブラウスの中に手を入れ、背中のホックを外し、胸の膨らみを揉みしだいた。
ショーツの上から割れ目に沿って何度も指先を往復させると、その刺激のせいでショーツがぐっしょりと濡れていく。
「こんなに濡らして……帰り、このまま帰るのか?」
「ん……そう、だよ」
少し紅潮した頬、とろんと潤んだ瞳が可愛らしくいやらしい。
「誰かにバレるんじゃないか? こんな下着に、その顔」
「バレてほしいの?」
ふふ、と笑ったものの、堪らないというかのようにのけ反る。
「せんせ……じかに、触って……」
腰を浮かせて自分でショーツのへりを捲り、滴るほどに濡れた場所へと僕の指を導いた。
指先からゆっくりと埋めていくと、とろとろと温かい蜜が溢れ、指に絡みつく。
谷口はうっとりと恍惚とした微笑みを浮かべて、上半身を捩る。
「脱いだ方がいいだろ、これ」
「んっ……」
身体を入れ換えて、谷口をソファに座らせた。
ショーツをはぎ取り、腿裏に手を入れて身体に押し付けるように脚を大きく開く。
そこは紅く充血して、谷口の意思とは関係なくひくひくと蠢き、男を求めているかのようだった。
「やだ、そんなに見ないで」
さっと隠そうとする谷口の手を握ってその動きを止めた。
「見られて興奮するんだろ?」
そしてこういう言葉にも。
お互いに昂ぶっていくのがわかる。
「あ……うん、すごい……興奮するかも」
内腿に唇を当て、露わになったその場所へと滑らせる。
閉じられた小さな花びらを指先でかき分けて、舌を侵入させた。
「うそ、や……ああ…っ……!」
いやいやと首を振って身を捩る。
舌を動かすたびに溢れてくる蜜を啜り、喉に流し込む。
開いた花びらの中から現れた小さな蕾を舌先でつつき、そこを口に含んで吸いたてると、谷口は小さく叫び声を上げて、身体をびくびくと震わせた。
「もう、いったのか」
深く荒い呼吸をする谷口を見下ろすと、谷口は涙を浮かべた瞳でこちらを見上げた。
「だって……気持ち、よすぎる……」
そう言って艶っぽい微笑みを浮かべる。
「本当、谷口は淫乱だな」
「そうだよ」
くすくすと笑い声を立てる。
「もっと、気持ちよくなりたいの……頭おかしくなっちゃうくらいに」
ブラウスの胸元は大きく肌蹴て、白く柔らかなふたつの膨らみが谷口の呼吸にあわせてゆっくりと上下する。
しどけなく開かれたままの脚の間は、まだ見てわかるほどに濡れていた。
そしてやはり眼鏡を指先でちょんと上げる仕草に、少し笑ってしまう。
「え、なに?」
「眼鏡。癖だよな、それ」
「あ……うん、そうなの。そんなにやってる?」
少し驚いたように目をぱちぱちとさせる表情は、今さっきまでの大人びた表情とは違って、あどけない。
「うん、よく見てる」
「……ね、先生」
「うん?」
谷口はちょっと考えるように首を傾げて、
「ん……なんでもない。ね、続き、して?」
僕は立ち上がって鞄の奥に入れてあったコンドームを取り出した。
「つけてあげようか?」
「……いや、いい」
「なんだ」
くすくすと笑う谷口を横目に、自分の手でそれを自分自身に装着し、ソファに横たわる谷口の脚の間に入り込んだ。
「早く……」
「焦るなよ」
粘着質な水音を立て、身体を結びつけた。
入り口はきつく締め付けてくるものの、谷口の身体はもう容易に僕を受け入れる。
僕は遠慮することなく、谷口の身体を貫き掻き回した。
唇を重ね、舌を絡ませる。
谷口は拒むことなく僕を受け入れ、舌を動かして応えた。
どちらのものとも言えない唾液が谷口の口の端から零れるが、それでもくちづけをやめることはなかった。
今この時、谷口に対して恋愛感情を抱いているかどうかは、自分でもわからない。
谷口がどう思って僕とセックスしているのかなんて、わかるわけがなかった。
ただ、お互いに欲しているだけ。
それだけは確かだった。
唇を離すとふたりの間に透明な糸がかかり、すぐ消えた。
谷口の顎に垂れた雫を舐め取り、両手で胸の膨らみを揉みながら先端まで舌を這わせる。
その間も抽送は止まることなく繰り返し、谷口の切なげな喘ぎ声が部屋に響いていた。
谷口の身体を抱き上げて、向かいあって座る体位に変える。
「動いてみろよ」
「わたし?」
「そう。セックス好きなんだろ?」
そう問いかけると谷口は少し笑って答えた。
「うん、……あ、これ…いいかも」
膝を立てた姿勢で腰を前後に揺らす。
その頬に手を添えて、また唇を重ねた。
唇の間から谷口の吐息が漏れる。
ふたりの重なり合う場所が同じ音を立てる。
「もっと、腰振って……自分で、いけよ」
「ん…うんっ……すごい、止まらないのっ……」
片手で谷口の腰を支え、もう片方の手は胸元を弄る。
白く柔らかな膨らみは、僕の手の中で自在に形を変えた。
「ああ…っ……先生……せんせ…っ……」
今にも叫び出しそうな谷口の唇を唇で塞ぐ。
「ふ…うんんっ……!」
身体を震わせて一瞬強張らせた後、するりと力が抜けていく。
脱力した身体とは裏腹に、僕を収めているそこは強く僕を締め上げ続ける。
僕の肩に頭を乗せて、息を弾ませる谷口の背中を撫でた。
「まだ……もっとだよ……もっと、わたしを壊して。先生が……めちゃくちゃに、して」
首を横に振って、ゆるりと顔を上げる。
「谷口……?」
僕を見つめるその瞳はとろんと熱っぽく、それでいて鈍い光を放っていた。
「なんにも、考えられないくらい……気持ちよくして……抱いて……」
谷口の方から唇を寄せてくる。
その唇を貪るように口づけた。
首に絡みつく細い腕、熱い息遣い。
すべてを、僕の物にしてしまいたい。
……そんなこと、できるはずがないのに。
谷口自身がそれを望まないだろう。
それでも、今だけなら。
また快楽を求めて動き出す谷口の腰を支えて、仰向けに横たわらせた。
艶やかな髪が無造作に広がる。
耳元の髪をかき上げて、耳朶に口づけ、首筋を舐めていく。
谷口は僕の動きに合わせてのけ反り、声を漏らす。
その身体の奥深くまで貫いて、ギリギリまで引き抜く。
自分をも追い詰めながらゆっくりとその動きを繰り返す。
先に堪えられなくなったのは、谷口の方だった。
「せんせ…っ……お願い、もっと……」
「何? 言えよ」
「おねがい…もっと、……もっと、突いて…っ……」
その言葉を待って、腰に力を込め律動のスピードを上げる。
悲鳴にも似た甘く狂おしい声が、卑猥に響く水音と重なり合う。
僕の動きに合わせて揺れる胸の膨らみを手で掴むように揉み、先端を爪先で引っ掻くと、掠れた悲鳴とともに谷口の身体が跳ねた。
それと同時に二人を結びつけている部分が強くきつく、断続的に僕を締め付けた。
「くっ……!」
堪えられずに薄い膜の中へ欲望の全てを放出する。
その瞬間僕は自分の白濁した精液が谷口の中を汚すのを想像していた。
目眩がするほどの快楽の余韻もそこそこに後始末を済ませ、谷口の側に腰を下ろした。
谷口は目を閉じたまま息を弾ませていたが、その息遣いが落ち着きはじめたと思うと寝息に変わったようだった。
壁の時計を見上げると、下校時刻まではあと三十分ほどある。
……少し休ませるか。
そう思い、起こさないように谷口の服を少し整えてから、上半身には谷口が脱いだニットセーターを、脚元には僕のコートを掛けた。
今までも誘ってくるのは谷口からだったが、キスは最初のあの日だけだった。
それが今日は何かが違った。
今までよりも激しく求め合ったのは、先ほどの加藤のせいだけだろうか。
谷口の考えは、わからない。
自分は、どうなんだろう。
谷口の寝顔を見下ろして考える。
素直に、綺麗だと思えた。
セックスの最中に芽生えた谷口に対する独占欲は、今でも変わらない。
こんな無防備な寝顔を見せられると、より一層その想いが強く感じられた。
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