十一

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土方に溢れた言葉を追及されず、また体調を崩した原因を問い質される事もなく、布団の中で抱き合ったまま半刻程過ごし、どちらからともなく帰路に就いた。 葉月の中旬、現代で言えば中秋の名月の頃。日没間近の薄暮時。 徐々に紅く染まり始めた空を見上げる。 空を見上げたのは何時ぶりだろうかと口角が上がる。土方は空から数歩後ろを歩く萠に目を移す。 来た時より幾分ましになった萠の顔が見え僅かに安心するも、問題は何も解決していない。 萠が何を抱え、魘される迄追い詰められて居るのか、検討がつかない。 しかしこれ迄の経験から、原因は己たちの先の事であるのは確かだった。 何時もであれば多少悩んでいる様子はあっても、暫く見守っていれば答えを見付けて己に話し詰め寄ってくる。 だが今回ばかりは萠自身で答えに辿り着けないようだ。 それだけ問題は重大って事か… 胸中一人ごちて土方は前方を見た。 さて、どうしたものか 考えあぐねるうちに屯所の門を潜る。中に入ろうと上がり框に足を掛けた時、長身の男が土方の横を通り過ぎた。
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