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女の顔が歪んだ。 ゆっくりと僅かに瞼が持ち上がる。視界が霞んで居るのだろう数度瞬きをした後、完全に目を開いた。 「見えますか? 痛みますか?」 総司の問い掛けに答えようと唇が薄く開くが、吐息が漏れるだけで何も聞こえなかった。 「総司、水だ」 五日も寝ていたのだ、喉も乾上がり声すら出ないのだろう。 土方に言われ、総司は女を後ろから抱くようにして座らせ、口元に白湯の入った湯飲みを近づける。 女は傷が痛むのか、緩慢な動作で湯飲みを右手で持つと、ゆっくりと口をつけた。 一口飲むと小さく息を吐く。 「ありがとうございます」 掠れた声で言って、また湯飲みを口に運んだ。 「総司、代わる。源さんに言って重湯を作ってもらってくれ。後、山南さんと斎藤を呼んできてくれ」 総司に代わり土方が女の体を支えると、総司は軽やかに部屋を出ていった。 女は時間をかけて白湯を飲み干すと、先程よりもハッキリとした声で言う。 「ありがとうございました。此処は何処でしょうか?」 「新撰組の屯所だ」 女の体が強張るのを支えた胸で感じた。 女は先程出ていった総司と呼ばれた青年や後ろで自身を支える男に、感じていた違和感の元凶に触れたのだ。 其処へ、土方に呼ばれた山南と斎藤、総司が入ってくる。 「気がつかれたようで何よりです」 女は柔和な表情で自身の真正面に座った男に、言い知れない恐怖を感じる。 「ありがとうございます…」 その男の後ろに控えるように座した青年を見て、女は更に体を強張らせる。 女は青年の晩年の姿を見知っていた。今、目の前にいる青年の面影が色濃く残った姿だった。 斎藤一さん… 無言で威圧的な目を向けてくる斎藤に、頭の中が冷めてくる。 「ねぇ、貴女、お名前は?」 布団の脇に座った総司が尋ねるが、それを制すように後ろから声がした。 「総司、黙っていろ。尋問は俺がする」 「えー、だって名前が分からなきゃ話しにくいじゃないですか」 後ろの土方が何か発しようと息を吸ったのを感じて、女が話した。 「榊萠です」 「榊さんですか、話してて辛くないですか?」
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