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「ああ」
「土方さん、耳をかして下さい」
首を前に倒し萠の顔の右側に左耳を寄せた土方に萠は囁いた。
「土方さん、沖田さん、後は諸説ありますが山南さん、井上さん、原田さんの内の二人。確実に言えるのは、芹沢を殺ったのは土方さんと…」
皆まで言う前に土方の右手が萠の首を締め上げた。みるみる鬱血して萠の顔が赤く染まる。
その苦痛に歪む顔を不覚にも土方は美しいと思った。
「殺るなら殺れば良い。信じてもらえないなら、私に生きて行く術はない」
途切れ途切れに喘ぐように紡がれる言葉に、土方の力が緩む。そして嘲るような言葉が出た。
「その体なら娼妓で生きていけるだろ」
萠の唇が緩やかに弧を描く。
「好きでもない男に抱かれるくらいなら、死んだ方が何倍もましよ。下衆な事を言うくらいならさっさと殺りなさいよ」
萠の首にかけたままの土方の手に再度力が込められる。
片手で簡単に握り潰せそうな細い首の感触に、土方の加虐性が煽られる。
骨の軋む感覚が手に伝わる。
「土方止めろ!!」
市波が怒りに滲む目をして叫ぶ。腰縄で動きを封じられて思うように動かない体で、どうにか土方に体当たりしようともがいていた。
後少しで萠の首が折れる所で、土方の腕が捕まれた。
「土方君、それでは本当に死んでしまうよ」
穏やかな顔を崩さず山南が止めたのだ。
土方の手が萠の首から外れると、体を二つに折って萠が咳き込む。
その咳の合間に
「楠小十郎を探りなさい。他にもいるから…」
そう呟いて萠は意識を手放した。
「ちょっと土方さん何してるんですか。また出血してるじゃないですか」
「も… え… 萠!」
市波の悲痛な声が響く。
「うるせぇ。斎藤、そいつを土蔵に帰せ」
「承知」
踞り中々動こうとしない市波を引き摺るように立たせる。
「土方、萠に何かあったらただじゃおかねぇぞ!」
憎悪の籠った目で土方を睨み付け、怒鳴った市波が部屋から消える。
それを見届け土方は山南以外を部屋から出した。
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