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「山南さん、すまねぇが先ずは榊の晒しを替えるのを手伝ってくれ」
躊躇なく萠に着せていた自身の血の滲んだ襦袢を脱がす土方に、山南が僅かに苦い顔をする。意識が無いにしろ嫁入り前の女の肌を見る事に抵抗があったのだ。
しかし出血しているとなれば、そのままにしておく訳にもいかない。
土方に気付かれないように小さく息を吐いて、胴に巻いた晒しを外す為、萠の体を支えた。
「この程度の出血なら、直に止まるでしょう」
手早く薬をつけ晒しを巻き直す土方に山南が言う。
「ああ」
「しかし、君ともあろうものが、直情的な事をしたものですね。何を言われたんですか」
萠に新しい襦袢を着せ寝かせると、土方は眉間に皺を寄せ一段声を落として話す。
「榊が芹沢暗殺の事を知ってやがった…」
「成る程」
山南は意識のない萠の顔を見詰める。
芹沢とは以前新撰組の筆頭局長を勤めていた男だった。商家への押し借りや焼き討ち等、目に余る程の暴挙をおかし、見過ごせなくなった会津藩より粛清の密命が下り、土方らが暗殺した男だった。
そして今、土方はその暗殺を敵対する勢力の仕業に見せかけるべく、隊内の間者の炙り出しに躍起になっていた。
「それに聞いただろ<楠小十郎を探りなさい。他にもいるから>だとよ」
山南が視線を土方に戻す。
「楠は長州の間者の疑いがある。今内定中だ」
山南は目を閉じて考え込んだ。部屋は静まりかえり鬱々とした時が流れる。
「で、土方君はどう思うんですか?」
「判断がつかねぇ。芹沢の事を知っていた事もある。荷物にしても正直、この時代の物とは思えない。仮に異国の物だとして、あれだけの物を作れるとしたら攘夷等無駄な事じゃねぇかと思う。異国がその気になれば日本等、赤子の手を捻るより簡単に属国に出来るだろうよ」
「では、異人でも間者でもなく時代を越えて来たと?」
「わからねぇ」
艶やかな総髪の頭を苛立たしげに掻き答える。
「で、山南さんはどう思う」
山南は失礼するよと言って、萠のトートバッグに手を掛け、中身を確認する。暫くすると困ったように声をあげた。
「何が何やらわかりませんね。何に使う物なのか、果たして何で出来ているのか。しかし、土方君の言う通り、此が異国の物だとするとかなりの脅威ですね」
「ああ、それに間者とかんがえるのも無理がある。榊や市波が此処へ来た時の様子からして、此所に入り込む手段としては不確実過ぎる。そんな事に命をはる間者等、間抜けも良いところだ」
「しかし、楠君の事を考えると、知っていたとも、自分が助かる為に仲間を売ったとも考えられると言う事かな?」
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