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相違ないと土方が頷く。
「もし本当に時代を越えて来たとすれば、榊君は少なからず私たちの事を、この時代の事を知っていると言う事になりますね。勿論、市波君もです。そんな二人をおいそれと外に出すのは、ある意味間者よりも危険です」
そこで山南は言葉を切り、土方を強い目で見る。
「しかし、それを利用する事も出来るのじゃありませんか?」
「そうだが、それはあくまでも時代を越えて来た事が前提だろ」
「まあ、未だ判断材料が足りないって事じゃないですかね」
堂々巡りの話し合いが半刻程続いた。障子の外がゆっくりと茜色に染まり出す。
「ところで土方君、近藤さんにはどう報告するんですか?」
「あー」
と言ったきり土方はつかの間黙りこむ。
「近藤さんには、異人か間者か判断がつかないと報告する」
「おや、時代を越えて来たとは言わないのですか?」
土方は苦虫を潰したような顔をすると言った。
「近藤さんは人が良すぎる。もし、榊たちが時代を越えて来たと知れば、何処かで人が良すぎる故に、ポロリと口にしかねねぇ。そうなれば厄介事が増える」
「確かに。長州等に拐われて利用されれば、此方は一溜まりもないですからね。それが良いでしょう」
それではと言って山南が立ち上がり、障子に手を掛けて振り返った。
「市波君の様子では、土方君が聞いても何も答えないでしょう。明日にでも私が話を聞いてみます。それと此所に居た者たちには箝口令を出しておきます」
「山南さん、頼んだ」
山南は音もなく出ていった。
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