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「そう言えば、まだ私は名乗って居ませんでしたね。山南と言います。今日は幾つか市波君に聞きたい事がありましてね。少しお付き合い下さい」 穏やかだが有無を言わせぬ山南に、市波は気を引き締めた。 「先ず、貴方たちは一六〇年先の時代から来たのですね?」 「はい」 「では、私たちやこの時代の事はどの程度知って居るのでしょう」 市波はさして考えるでもなく答える。 「俺がわかるのは僅かです。名前と大きな歴史の流れだけ。あっ、でも斎藤さんの事は分かります。滅法剣が強く、義に厚く、己の信じた道を真っ直ぐ突き進む、男も惚れる男です」 キラキラと目を輝かせる市波を、斎藤はさも気持ち悪いモノを見るように見る。 「君が斎藤君を好いているのは良く分かりました。では、榊君はどの程度知って居るのでしょう?」 「萠は詳しいと思います。大学でこの時代の事を勉強をしてたんで。それに土方に興味津々だったし」 昨日の事を忘れていないと言わんばかりに土方を呼び捨てにし、嫌そうに顔を歪める市波に、つい笑いそうになる山南。 「土方君ですか。それで大学とは?」 「寺子屋みたいな感じです」 「では、君はその大学で何を学んでいたのですか?」 「俺は薬、創薬が専門です」 山南は心中困惑していた。それは市波が余りに淀みなく話すからであった。間者ならば多少の緊張感や戸惑いが伝わってくる筈である。 しかし市波にはまるで其がなく、ただ真摯に答えている印象しか持てなかった。 時々分からない言葉を話すのは、異人だからか、それとも時代を越えたからか…
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