23/35
前へ
/322ページ
次へ
萠と剣道、剣術との出会いは、高校一年の春である。それまでアメリカに八年、その後フランスに四年、父の仕事の都合で住んでいた。それを大学は日本でと言う親の願いで、萠は一人祖父母のいる日本へ帰って来たのだった。 殆ど記憶に無い祖父母との生活。祖母は同じ女である事もあり直ぐに馴染めたのだが、祖父とはそう簡単には行かなかった。 そんな祖父との接点が剣道であり、剣術だった。 「お祖父ちゃん、剣道って楽しいの?」 「打たれれば痛いし、辛いことも多いが強くなるのは楽しみだよ」 「ふーん」 手入れの行き届いた庭で素振りをしていた祖父に、そう話し掛けたのが切欠だった。 萠は侍と言うものに幼い頃から興味を持っていた。実はそれは祖父が原因だった。 幼い頃より海外で育った萠。英語は堪能であったが、日本語に今一つ不安があった。そこで萠の両親が祖父母に、日本の本を送ってくれるように頼んだのだ。 そして祖父が送ってきたのが、マンガ日本の偉人伝だった。 萠は絵に釣られて何度も読み返した。卑弥呼に始まり福沢諭吉まで、そんな中でもお気に入りが幕末に活躍した坂本龍馬や高杉晋作、土方歳三だった。日本人でありながら海外で生活する萠にとって、攘夷と言う思想が余りにかけ離れたものだったからかも知れない。 それが萠が剣道を始めた一つの理由になったのだ。 祖父に習い剣道を始めた萠、元々素質があったのかメキメキと上達していった。高校二年になる頃には、剣道部のレギュラーに選ばれるようになる。 そんな時、祖父が言った。 「萠、剣術をやって見る気はないかい?」 興味本位で頷いた。そして萠は剣道と剣術の違いを知って行くことになったのだった。 「無理です。剣道と剣術は違いすぎます。勝負になんてならない。もし隊士になれたとしても、市波さんに人は斬れません」
/322ページ

最初のコメントを投稿しよう!

255人が本棚に入れています
本棚に追加