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「横浜に行ければ何とかなるはず。今は1863年でしょう。ジェームス・カーティス・ヘボンが既に横浜で開院してる。来年にはウィリアム・ウィリスが国際疱瘡病院も作るの。だから注射器とか、そういうのは手に入れる事が出来るはず」
「萠、なんかスゲー事考えてるって分かってるか?」
「何よ。人を斬るより良いでしょ!」
「いや、そうじゃなくて歴史が変わるかも知れねぇぞ。ペニシリンが最初に発見されるのはまだ六十年程先だし、実用化されるのはその十年先なんだよ」
「それでも…。市波さんが人を殺すより良いじゃない。それに、助かる命が増えるんだし…」
土方は萠と市波の話を聞いていた。
ペニシリンだとか注射器だとか、訳の分からない言葉は出てくるが、萠が何とかして市波を隊士にせずに済むように考えている事だけはわかった。
「それはそうなんだけどよ。それに、作るって言っても元手がかかるんだぞ。俺達にそんな金はないだろう」
「わかってる。だから、先ずは市波さんが作るって言ってくれないと、話の進めようがないの…」
「それじゃ、俺がヤルって言ったら、萠はやるんだな? 歴史が変わっても良いんだな?」
「あのね…」
萠は例えペニシリンを作って、助かる筈のない命が助かったとしても、高々二人の人間がする事で、歴史の本流が大きく変わる事はないと思っていた。
また、大きな歴史を変えなければ良いとも思っていたのだ。
「わかった。ヤルよ」
「ごめんね。無理やりさせちゃうみたいだよね」
申し訳なさから、所在なさげに言う萠。
「無理やりじゃねぇよ。俺がヤルって決めたんだ。だからそんな顔するなって。俺が萠のそんな顔に弱いの知ってんだろが」
市波が沈んだ顔を見せる萠の頬に手を添えた。二人の近すぎる距離を見ていた土方。そして、市波の先日の怒り様を思い出し口を開く。
「お前たちは恋仲か?」
「違います!「恋仲ってなんですか?」」
二人の声が被る。
「あのね。恋仲って言うのは恋人の事なの」
萠が教えると、市波は「あー」と頷き
「元恋仲です」
と、言い切った。
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