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「元?」
「前に別れました。でも、俺はこのままにするつもりはない!」
まるで宣言でもするかのように大声で言い切る市波に萠は頭を抱える。
途端に布団に横になる萠の横で、市波が土下座する。
「ごめん、萠。未だちゃんと謝ってなかったよな」
市波が萠が刺された経緯を話し出した。
梅雨入り間近のジメジメとした、湿気の酷い日だった。今にも降りだしそうな空は重たそうな雲に覆われていた。
「美紀、本当にこんなとこにあんのか?」
180センチは優に越す身長の背中を軽く折り、隣を歩く小柄な女に話し掛ける男がいた。
「玄邦君、大丈夫だよ。ちゃんと調べたから」
下京区役所近くの路地を、二人は旅行会社を探して歩いていた。
製薬会社の新薬研究室に勤める二人は、フランスから来る視察団の為に半日の京都観光を手配しようと、旅行会社を訪ねようとしていた。
その旅行会社はプライベート観光をする外国人旅行者の間で評判の所だった。何でも観光地に置いてあるリーフレットだけでなく、旅行者の母国語に合わせた物を独自に制作してくれるらしい。
勿論、目的地や金額なども相談しフリープランでツアーも組め、必要とあれば母国語のガイドも用意してくれると言うのだ。
「あっ、此処だよ」
女 杉本美紀が立ち止まって言う。
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