十一

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それ故に何度か声を掛けた事もあった。だが萠は笑って平気だと言うだけで聴き入れなかった。 炊き出しを始め、此処の仕事を疎かにしない為に無理をしているのかと思って居たが、今の状態を見るにその考えが間違って居たと思わざる終えない。 何を抱えてやがる… 何故話さない… 目の前に居る惚れた女が、何かに苛まれている。その事実が苦しい。 出来る事なら胸に抱き、この世の中のあらゆるものから守ってやりたい。そう強く願うが、その女は己を頼ろうとしない。 俺に守らせてはくれないのか? いつの間にか膝の上で握り締めていた手を眺める。 「俺の手は頼りないか…」 土方はその剣だこだらけの手で流れ落ちる萠の涙を拭う。そしてそっと手のひらで萠の頬を覆った。 そのまま暫く萠の顔を見ていると、穏やかな寝息が聞こえてきた。まるで母に甘える幼子のように、己の手にすり寄り眠る萠に、土方は少しばかり救われる気がした。 「副長、医者が来ました」 簾戸の向こうから聞こえた声に返事を返し萠を起こす。来た医者と言葉少なに会話して土方は部屋の外に出た。 広縁の柱に寄り掛かり大きく息を吐く。百日紅の花が縮れた花弁を雁の羽風に揺すられていた。ハラリと舞うそれを美しいと思った。
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