十一

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背後からはボソボソと話す医者と萠の声がする。何を話しているのかは分からなかったが、程なくして出て来た医者は「悪い所は無い。休ませておけば良い」と言って帰って行った。 土方が部屋に入ると布団を畳む萠が居た。 「何をしている」 己でも驚く程に低い声が出た。一瞬首を縮めた萠だったが、半刻程休んで目眩は治まったからと出て行こうとする。 それがまた土方の癪に触った。 擦れ違いざまに萠の腕を掴み上げ引き寄せると、空いている手で腰を捕らえる。勢いのまま顔を一寸程まで寄せ睨んだ。 「大人しく休め」 近過ぎる距離にお互いの顔は見えないが、咄嗟の土方の行動に萠は驚き目を見開いた。 「土方さん!」 簾戸が突然開かれると突進するかのように沖田が部屋に雪崩れ込んでくる。その勢いに萠が圧倒されて居ると、 「総司、返事を待ってから開けろと言っているだろうが」 と不機嫌極まりない声を出して土方が凄んだ。しかしそれを気にする沖田では無い。萠を抱き寄せたままの土方に噛み付く。 「土方さん、屯所で盛らないで下さいよ。萠さん、具合が悪いんでしょう?」 「だから今休ませようとしてるんじゃねぇか。だがここじゃ五月蠅くて休めもしねぇな。総司、門限迄には帰る。後は山南さんにでも言っといてくれ」
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