十一

30/38
前へ
/322ページ
次へ
何を言っているんだと目をしばたかせる沖田を置いて、土方は萠を引き摺るようにして屯所を出た。 建具替えを半月程後に控え、焼け付くような陽射しは和らぎ、盆地特有の蒸し暑さも峠を越えていた。しかし半歩前を歩く土方に掴まれている手首にチリチリと焼けるような熱さを萠は感じていた。 土方は間違いなく、何時もの出会茶屋に向かって居る。先程、沖田には屯所では休めないと言っていたが、それが方便である事に萠は気付いていた。 不本意ながら土方の部屋で半刻ばかり眠ってしまった。となれば確実に魘されている姿を見られた筈である。 そんな状態を見れば土方は黙っている筈がない。間違いなく問い質される。寧ろその為に土方は屯所を出たのは明白だった。 しかし問い質されたとしても、答える訳にはいかない。 此れまで土方には山南や沖田、藤堂の行く先について話してきた。それはその未来を変えれる事が前提だからこそ話せた事であって、今更変えれませんとは到底言えない。 もし無理だと話してしまえば、土方にも仲間の死期を知る辛さや苦しみを与えてしまう。要らない悩みを抱えさせてしまう。そんな事にはしたくない。 未来の知識で苦悩するのは自分一人で十分だ。 萠は此れから始まる尋問にどう答えるべきか悩みながら、土方に引き摺られていた。
/322ページ

最初のコメントを投稿しよう!

257人が本棚に入れています
本棚に追加