十一

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しかし出会い茶屋に着いた土方の行動は萠が予測していたものとはまるで違った。 日に焼けた畳みに敷かれた、お世辞にも清潔とは言い難い布団に萠を寝かせると、視界を遮るように萠の目を厚い掌で塞ぐ。 「先ずは寝ろ」 そう発して目を塞いだ手はそのままに黙り込んだ。部屋に入れば直ぐにでも問い質されると思っていた。しかし土方はそうはしなかった。 それは何より萠自身の体を心配する土方の心情を表すようで、喜びとも後ろめたさともつかない涙が込み上げた。 だが土方はその掌に感じているであろう涙についても何も聞こうとはしない。 四半刻程、流れるままに涙を流しながら萠は眠りに着いた。 それを見届け土方はゆっくりと息を吐く。緩慢な動作で涙に濡れた掌を見詰め、また一つ息を吐く。 萠に聞きたい事はあった。だが一番にしなければならないのは萠を休ませる事だと、それに蓋をした。 眠る萠を見ればくっきりと浮き出た隈にこけた頬。元々抜けるように白い肌はくすんでいる。そして抱き上げた時に感じた、以前よりも随分と軽い体。 何故ここまでになる前に己は動かなかったのかと言う悔恨が胸中に渦巻く。 それにしても萠を此処まで追い込んでいる物が何なのか皆目見当がつかない。幾度目か分からない溜息を吐いた時。萠の顔に苦悶の表情が浮かぶ。
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