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「出来ねぇってどういう事だ?」
市波は安藤と新田の事を土方に話す。
「市波、お前はどう思う?」
「どう思うと言われても困りますね。確かに史実通りの死亡日時だったって事だけ見れば、助けられなかったって事なんでしょう。
でも過程は違う。変えれたとも変えられなかったとも俺は言えないと思ってます」
「俺も同じ意見だ。榊は死に囚われ過ぎてるんだろう」
市波が同意するかのように頷いた。
「この話、俺が預かる。市波、手前とらせたな」
「萠の事なんで気にしないで下さい。土方さん、頼みます」
市波が着流しの裾を翻して戻って行く。土方は月明かりの中、懐手にして今しがた去っていった市波の事を考えた。
始めの頃は調子の良い頼り無いだけの男に思えた。また何故萠が惚れたのか理解できなかった。
それがどうだ。先の目標を定めた途端に目を見張る程の信念と粘りを見せる。
この一年近く、土蔵にこもり先の世の薬とやらを作り続けている。そして完成間近だと言う。
その全てが萠の目的の為だと言うのだから頭が下がる。
そしてたった今、惚れた女の為に、恋敵である己に頼むと、何の躊躇も無く頭を下げていった。その潔さは清々しくもあった。
土方は市波が中々の男振りである事を認めざるおえなかった。
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