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「ですから、市波さんに薬を作らせて下さい」 萠が頭を下げる。しかし、土方と山南は余り良い反応は示さなかった。そこで、切り札とばかりに萠が言う。 「確かに作るに対して問題はあります。先ずは元手。でも、花柳病が治るとなれば、人は集まると思いませんか? 放っておけば、皮膚が崩れたり、最悪は死に至るんですから」 山南がポンと手を打つ。 「成る程、榊君は花柳病の薬を作れば、それがやがて此処の資金源にもなると考えて居るんですね。かの黒田官兵衛も花柳病だったと聞いた事があります」 萠はニッコリと笑う。 「そうです。最初は苦しくても、必ず取り戻せると思っています。」 「だが、何処で作る。此所にそんな余裕はねぇぞ」 「あるじゃないですか。医科診療所、浜崎さんのお宅が。きっとご立派な家じゃないんですか? 蔵でも土蔵でもお借り出来るんじゃありませか? それに町医者だったって説もありましたよ。」 悪巧みをするような顔をした萠。してやられたと額に手をおいた土方。山南は何やら感心したように頷いていた。 「ちょっ、ちょっと待って。医科診療所って何? 浜崎って誰? それって何処?」 一人話に着いてこれない市波。一気に場の雰囲気が変わった。 「市波君、ちょっと黙りなさい」 「確かに浜崎のじいさんの所なら、無くはねぇ話だな」 「ええ、参りましたね。そんな事まで知っているとは… やはり榊君たちは後世から来たと思わざるおえませんね」 してやったりとほくそ笑んだ萠。伊達に現代で土方歳三に興味があった訳ではなかった。 「次に元手なんですけど、私たちではこの時代の貨幣価値がわかりません。勿論、借金も出来ません。ですから新撰組として鴻池さんから、お借りする事は出来ませんか?」 鴻池は大阪にある大名貸しや両替商を生業にする豪商であり、その流れは現代まで続いている。 そして鴻池は新撰組の支援者でもあった。 其処まで知っているのかと山南と土方は顔を見合わせた。
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