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「次に製造に使う道具ですが、どうしても今の日本では手に入らない物があります。なので、横浜の外国人居留地へ行かせて下さい。」 「萠、居留地なら神戸の方が近いだろ?」 萠は首を横に振る。 「残念だけど、神戸には未だ居留地はないの。開港すらしてない。」 「横浜だと! 女の足で行けると思ってるのか。二十日は掛かるぞ」 「行きますよ。這ってでも行きます。長崎に行くより近いでしょ!」 市波がやれやれと言ったふうに言う。 「土方さん、言っても無駄です。萠は一度言ったら絶対に退きません。ものスッゴい頑固なんです」 「面倒くせぇ女だな。誰か代理で行かせる訳にいかないのか?」 「メリケン語が話せる人が居ればね」 ツンとそっぽを向いて言う萠。土方は悔しそうに顔を歪める。 「待って下さい。榊君、居留地ならば通詞が居るでしょう」 「それは居ますよ。でも、細かい交渉をするなら直接話すのが一番です。通詞の言葉じゃなく、自分の言葉で」 それもそうだと山南が退く。 「あー、仕方ねぇ。行かせてやるよ。但し、此れから冬になる。春まで待て」 土方は未だ萠たちを完全に信じた訳ではなかった。冬の間に萠や市波の素性を洗うと共に、怪しい動きをしないか見張り、見定めるつもりだ。 「本当! ありがとうございます。」 げんきんにも直ぐに機嫌の良くなる萠。 そんな萠に市波が微笑む。 「良かったな。」 「うん。市波さんは冬の間に必要なものをリストアップしてね。」
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