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「何だか上手く乗せられたような気もしますが、取り敢えず話は纏まりましたね。ところで、榊君にお願いがあるのですが」 「何でしょう? 実は私も山南さんにお願いがあるんです。」 「では、私から。メリケン語を教えては頂けませんか?」 「はい。私で良ければ。山南さん、私に文字を教えて下さい」 萠はこの時代の文字を書くことが出来なかった。海外で育った事もあり、筆すら満足に持った事がなかった。 ただ、史料を読みたいが為に必死に勉強し、読むことだけは、たどたどしいながらも出来るようになっていた。 「おや、文字が書けないとは驚きですね。」 「私たちの時代とは書き方が違うんです。どうにか読めるのですが、筆すら満足に使えなくて…」 「筆は使わないのですか」 萠はトートバッグを取ってもらい、中からボールペンと手帳を出して山南に渡した。 山南は不思議そうにボールペンを見始める。 「それが筆の代わりです」 市波がボールペンの芯を出して山南の手に戻す。 「書いてみてください」 山南は文字を書こうとするが、ボールペンではくずし字が上手く書けなかった。 「書きづらいですね。だが、墨を着けずに書けるのは便利です。持ち運びも嵩張らずに都合がいい」 萠はボールペンと手帳を受け取り、<山南敬助 土方歳三>と書き、山南に再度渡す。 「私たちはこう書きます」 山南は真似をするようにボールペンで書いた。 「成る程、この文字だと書きやすい。分かりました。先ずは手習いから始めましょう」 「それは良いが、榊は先ず傷を治せ。山南さん、早速で悪いが浜崎のじいさんの所へ話をつけてきてくれないか?  俺が行くより、山南さんの方が良いだろう。俺だと怖がられて終わっちまう。」 土方の言葉に萠がクスリと笑った。
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