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午後7時半過ぎ、そろそろ国道1号線の渋滞も解消されようかと言う頃。
「今日は一段と混んでますね」
青年は覆面パトカーの運転席で些かうんざりしたように、警察官にしては長目の前髪をクシヤリと掻き上げた。
「そうだな」
その時、無線が事件を知らせた。
<此方、機捜本部
西洞院通、下京区役所付近で傷害事件発生。被害者は二十代男女 尚、被疑者の女は京都駅方面へ逃走したもよう 付近を警ら中の車両は直ぐに向かって下さい>
「此方、機捜2号。向かいます。」
覆面パトカーは東寺駅を北に進み、八条油小路の信号付近にいた。
助手席に乗った男が素早くパトライトを出す。
赤い光が回転し、けたたましいサイレンが鳴る。
程なく現場と見られる人だかりが目に入った。
「奏(カナデ)で、先に降りる」
キャップを目深にかぶり、颯爽と助手席から駆け出す男。警察ですと大声を出しながら人混みを掻き分けた。
「萠… 死んじゃダメ」
白いシャツの腹を真っ赤に染めた女の横で、女の腹を押さえながら半狂乱になっている女が目に入った。
「代わる。あんたと被害者の関係は?」
側に転がる男には通行人であったであろう男が、止血しようと男の肩口を押さえていた。
女と代わり、被害者の傷口を押さえた途端、男は手にバチッとした静電気のような感覚を覚えた。
「えっと、会社の同僚です。外が騒がしかったので、出て来てみたら…」
と言って、直ぐ側の雑居ビルを指差す。
「それじゃ被疑者は見てねぇんだな?」
「はい」
「後で話を聞きたい。少し待っててくれ」
救急車のサイレンが近づき、奏でが走り寄る。
「おい、奏で。目撃者を押さえとけ」
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