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萠たちが幕末に来て一月近くが経とうとしていた。市波の肩の傷も癒え、今では入隊試験を受ける為に、斎藤に剣術の稽古をつけてもらっている。 元は山南に稽古を頼んだのだが、「君には斎藤君が良いだろう」と山南の勧めでそうなった。 最初は少々嫌そうな雰囲気の斎藤だったが、市波の人懐っこさに懐柔されたようで、どことなく楽しそうにしている。 「市波。手首の返しが甘い。それでは鎬で相手の刀を受けられない。直ぐに刀が使い物にならなくなるぞ」 「はい」 「刀を受けて流す考えはやめろ。体でかわせ」 「はい」 土方の部屋の前で稽古をする二人を萠と山南が茶を啜りながら見ていた。 「少しましになってきましたね」 「はい、剣道には無い手首の使い方なので身に着くまでは時間がかかるでしょうね」 「そうなんですね」 穏やかに隠居夫婦のように話す二人。しかし、後ろに穏やかでない人物が一人。 イライラと文机に向かう土方だ。
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