4/54
前へ
/322ページ
次へ
ブチブチと不満を垂れる萠に土方が言う。 「お前、着物は仕立てられるか?」 萠はぎょっとすると、 「無理ですよ。着流しさえ着れなかったの知ってるでしょう」 「だよな」 すると山南が 「あー、そう言う事でしたか。確かにこのままでは人前には出られませんね。」 そう言って立ち上がると、何処かへ行ってしまう。しかし直ぐに沢山の晒しと傘を手に持ち戻って来た。 「榊君、出掛けますよ。ちょっと襦袢になって下さい。」 戸惑う萠の帯に手をかけると、山南は一思いに抜き取る。稽古をしていた斎藤が呆然と見ていた。 「おい、山南さん。いくらなんでも部屋の中でやれよ」 夢中になると周りが見えなくなる山南。 「これは、すみません」 「いえ、別に裸になったわけではないので… でも、安心しました。山南さんにもこんな一面があったんですね」 「面目無い」 謝りながらもスルスルと晒しを萠の体に巻き付けて行く。 「はい、終わりました。」 肩から腰まで直線になるように、何重にも巻かれた晒し。腕すらも真っ直ぐに降りない程だった。 それはまるで肉襦袢のようで、萠はケタケタと笑い出す。
/322ページ

最初のコメントを投稿しよう!

255人が本棚に入れています
本棚に追加