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「何だか私、とんでもない事になってますよね。」 「榊君は線が細いので此くらいしないと、男に見えませんからね。それに此だけ巻けば、多少なりと傷に負担はかからないでしょう」 上手く動けない萠に着流しを着せながら山南は悪びれる風もなく言う。 着せ終わると懐から櫛を出し、萠の髪を慈姑頭(ポニーテール)に結う。 「此で傘を被れば男に見えるでしょう」 成る程と思うが如何せん動き難い。苦笑いを溢す萠。 「ところで、何処に行くんですか?」 「近くに男仕立てが居るので、ちょっと相談に行ってから、古着屋へ行きましょう」 そう言う事ならと萠はキャリーバッグを持ち出し中を漁ると、小さなベージュ色のジュエリーケースを手に取る。 それを丁寧な手付きで開け、パールが五粒着いたネックレスを取り出した。 「質屋に持っていけば幾らかになりますよね? それとも薬屋の方が良いでしょうか?」 「その鎖は金ですか?」 「はい、持っていく時は真珠だけにします。」 山南はそれが良いだろと頷く。江戸時代の質屋は金銀細工の取り扱いは禁止されていた。 「それにしても大きな真珠ですね。」 大きいと言っても10ミリ玉。しかし、江戸時代の真珠はとても小さい物が多く、また宝飾品としての価値は認められておらず、粉末にして薬として扱われていた。そして大きな真珠は輸出品として、産地のみで価値が認識されていた。
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