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いくらなんでも自分たちの手に負える傷では無かった。焼酎と晒しを抱えて戻った総司に、土方は医者を呼ぶように言いつけ、焼酎を手にした。 「土方さん、後もう一人いるんです。今、一君と源さんが運んできます」 土方が睨むように総司を見ると、幾分気まずそうに言った。 女は男と共に倒れていて、男の方も肩口に傷を負っていた。男の傷は大したものでは無いが意識がない。その上、一と呼ばれた青年よりも身の丈三寸は大きいと言う。 一とて六尺にとどこうかと言う長身。それよりも遥かに大きい男など、ついぞお目にかかった事などない。その上、女も五尺三寸程はある。其処らの男よりも大きい。 やはり異人か… 面倒な事にならなきゃいいがな… 文久元年と二年に起きた東禅寺事件を思い起こし、土方は布団の上で荒い息を繰り返す女を忌々しげに見た。 東禅寺事件は攘夷派浪士がイギリス公使オールコックを襲撃し、オールコックは無事だったがその書記官らに傷を負わせた事件だった。 結果、事件の責任は様々な条件を飲んだ上に、賠償金一万ドルを支払うことで幕府がとった。
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