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「源さん、ちょっと見てくれ」 年嵩の男に土方がホトガラが描かれている紙を渡す。 「ほぉ、こんなつるりとした紙は初めてさわりましたよ」 「いや、そこじゃなくて、此処を見てくれ」 源さん、井上源三郎が土方の指差す所を見る。 「こりゃ、トシさんによく似てるなぁ」 「だが、俺はざんぎり頭じゃねぇし、異国の物なんぞ着た事はねぇ」 フムと、考え込んだ井上だったが然程悩む事なく言った。 「他人のそら似じゃないですか? 異人にもトシさんに似た人が居るんでしょう。兎も角、この二人は異人って事で間違いないんじゃないですか?」 そう答えて井上は湯を沸かしてくると立ち上がった。 そんな井上と入れ替わりに、総司の連れた医者がやって来た。 土方は斎藤と総司を部屋から出し、医者の治療を見守る。 「傷は深いが幸いなことに臟腑には傷はないようじゃ。血さえ止まれば助かるやもしれん。兎も角縫うぞ。押さえる者を!」 土方は外で待機しているであろう斎藤を呼ぶと、湯をはった桶を持った井上と斎藤が入ってきた。 医者は女に手早く猿轡を咬ませ、土方に肩、斎藤と井上に片足ずつ押さえるように言って薬を手にした。 黄事(止血薬)を塗り、晒しで傷を被い湯で洗うと、針と糸を手にして土方ら三人を見回して小さく頷いた。 針が刺されると女の体がピクリと動く。しかし既に暴れる力も無いようで、淡々と縫合は終わった。 医者は晒しに再度黄事を塗り、縫合痕に被せて胴に晒しを巻いた。 「後は傷を綺麗に保ち、金創膏を塗りなさい」 医者は薬袋を差し出すと片付けをしながら、隣に寝かされいる男を見た。 「やけにデカイが異人か?」 片付け終わると男の傷を診て、女と同じ金創膏を塗るように言って立ち上がった。 それが五日前の出来事だった。 「本当に起きねぇな」 たまに息をしていないのではないかと、口や鼻に手をかざし息を確認しなければならない程、女は静かに寝ていた。 毎日、傷の晒しを換え薬を塗り、下の世話までしている土方にすれば、総司よりも女の状態に危機感を持っていた。 「このまま亡くなったらどうするんです?」 考えたくも無いが、そろそろ何か手立てを講じなければならない時が迫っていた。 「面倒くせぇな」 そう呟いた時だった。
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