双子協奏曲

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 一応そういう仕事もこなさないとと、真面目でちょっと後向きな性格の天翔は頭を掻いてしまう。好意と考えられれば楽なのだろうが、研究の世界はそんなに甘くない。それが足を引っ張ることはないか。それも考慮していなければならないのだ。 「先生は心配性過ぎますよ。藤枝先生くらいにタフにならないと」 「誰がタフだって?」  噂をすれば影とはこのことだ。二人が後ろを振り返ると、腕を組んでこちらを睨む藤枝葉月の姿があった。葉月は天翔と同い年であるだけでなく同じく特任助教だ。着任は葉月の方が早く、ここではムードメーカーのような存在となっていた。 そんな二人は互いに切磋琢磨している仲と言えば聞こえがいいが、天翔が一方的に揶揄われているとも言えた。今も葉月はにやにやと、天翔がどういう反応をするのか窺っている。 「あれ、今日って確か観測当番じゃなかったか」  しかし天翔もいつも揶揄われているわけではない。ともに研究しているこの一年半で学習している。睨んでくる葉月の言いたいこと、すなわち見た目のほっそりした具合や女性らしい部分を褒めろといったことは上手く回避し、話題を切り替えた。 「そうよ。さっきまでずっと空を見ていたわ。いくら自動でデータを取っているとはいっても、やっぱり自分の目で確かめたいからね。おかげで寝不足。家に帰るのは面倒だから仮眠室で休もうと思ってたの。そしたらあんたたちが人のことを話題にしているから」  思わず立ち止まったでしょと葉月は笑ってくる。その笑顔が何だか怖いのは、たぶん気のせいではないだろう。  ここでいう観測当番とは文字通り、天文台の観測状況を見張る当番のことだ。最近では自動で行えることも多いが、それでも人の力が必要なことがある。
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