双子協奏曲

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「あ、先生。おはようございます」  空を確認していると、もう一台勢いよく車が駐車場に入ってきた。そして降りてきた人物はすぐにそうやって挨拶をしてくれる。 「ああ、島田君。おはよう」  挨拶をしてきたのは島田駆という研究員だ。短く刈り込んだ髪がトレードマークで、人懐っこい笑顔を浮かべている。天翔とは何かとよく議論している仲で、微笑ましい後輩だった。 いや、天文台の勤務は駆の方が長いから先輩ともいえる。現在は自分の研究室に所属していて、色々と教えてもらっていることも親密になる理由だろう。駆は人見知りでなかなか天文台に馴染めなかった天翔をよくサポートしてくれている。 「今日はまた暑そうですね。晴れが続くのは嬉しいですけど、毎日猛暑日というのは勘弁してほしいです。天文台は涼しくていいけれど、家は暑くて寝不足ですよ。このままだと夏バテしそうです」  駆はそう言って眠そうに目を擦ると、少し失礼しますと慌てて駐車場の端へと向かった。仕事前の一服に行ったのだ。世の中の流れを受けて二年前に全館禁煙となり、この駐車場の外に設置された喫煙場所でしか吸えなくなったのである。 この暑さの中でじっと立っているのは賢明ではないなと、駆が駐車場の奥へと走っていくのを見送った天翔は先に天文台へと歩き始めた。蝉の声がうるさく耳に響き、より暑さを感じてしまう。山の上だからか蝉に種類は多く、それが大合唱しているものだからより大きな音だ。
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