双子協奏曲

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「まあ、静かなのは助かりますね。やっぱり一般の人が下の階にいると、それなりに声が聞こえたりしますから。それに夜の一般観測会がないのは、当番が回ってくる身としては有り難いです」  そんなこと言ってはダメなんですけどねと、駆は付け足して笑う。一般観測会は、夜の僅かな時間だが一般の人に望遠鏡で夜空を見てもらおうと、ほぼ毎日開催されているものだ。三十分程度のものだが大人気で、当番になった人はあれこれ知恵を絞ってやっている。これも休業日の月曜日にはない。 「そうか。俺は口下手だからな。一回やったら所長にお前はもういいって言われてしまったよ」  ははっと笑うも何だか悲しい。昔からあまりお喋りな方ではなく、人前で話すのは苦手だった。もちろん研究者となって人前で話す機会は多くなったのだが、研究の発表と一般の人への説明は大きく違った。笑いを取ってみたり難しい用語を容易なものに置き換えたりと、日頃使わない気苦労がある。それがまるでダメなのだ。おかげでここに着任して早々に戦力外となってしまった。 「それはそれでラッキーですよ。まあ、先生は研究に専念していろってことですね」  特任助教は任期付きだ。ここでは三年となっている。その短い間にある程度の成果を出さなければ、次に任期のない職に就くのが難しい。それを考えると、煩雑な業務をさせるより研究に励んでもらいたいとの思いがあるのではないか。ここの所長である片桐雅之はそういうところに理解のある人なのだ。 「そうだといいんだけどな。単なるお荷物と思われていないか。そう考えてしまうよ」
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