双子協奏曲

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 例えば、急に起こった天体現象に対応するためにデータ切り替えをするには、観測場所の変更をする必要がある。そんな時、コンピュータを操作して天体望遠鏡の向きを変える人が必要だ。だから月に数度、誰かが寝ずの番で天文観測をしているのだ。この仕事が最も天文学者らしいと思うもので充実感がある。 「藤枝の話題をしていたのはたまたまだよ。さっさと寝て来いよ。どうせすぐに起きて研究の続きをやるつもりなんだろ?」  文句はそれくらいにしてと天翔が言うと、そうねと葉月はあっさり踵を返して行ってしまった。ポニーテールがゆらゆらと揺れているのを、二人でしばらくぼんやりと見送った。 「はあ。予想外でしたね」 「ああ。さっさと行こう」  こういうのを気疲れというのだろうか。なぜか二人はどっと疲れを感じながら先へと進むことになった。廊下を進み階段で二階に上がる。そして左へと曲がった先にあるのが研究室の並ぶエリアだ。反対の右曲がるとミーティングルームや給湯室といったものがある。 「あ、おはようございます」  天翔の研究室のドアを開けた駆が、急に改まった様子で挨拶をする。それに後から入った天翔はどうしたと部屋の中に目を向けた。すると、中には副所長の鳥居恭輔の姿があった。恭輔は細身で落ち着いた雰囲気のある人物だ。四十一歳とは思えない、威厳と物静かさを持っている。そんな恭輔は天翔の席に座って何やら雑誌を読んでいた。 「おはようございます。どうかされたんですか?」  恭輔の姿を見た天翔は慌てて駆け寄ってしまう。何と言っても恭輔は大学の頃から世話になっている人だ。いわば師匠に当たる。さらにはここの特任助教にも推薦してくれた。天翔からすれば絶対に迷惑の掛けられない相手なのだ。
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