双子協奏曲

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「そんなに慌てなくても大丈夫だ。この間の論文について話を聞こうと思っただけだよ。もちろん、いいものだったからだ。恒星の輪の構成について、いいモデルを見つけたようだな」  そう言って笑うと、恭輔は持っていた雑誌を振る。それはこの間、天翔が書き上げた論文が載る日本天文学会が発行している欧文研究報告誌だった。  つい最近まで、天翔はある恒星に出来た輪、つまり降着円盤について観測していた。それは二重になっていてしかも円盤が赤道面に対して平行なものと垂直なものがある奇妙なものだった。要するに、円盤が恒星にクロスする形で出来上がっていたのである。  その出来た過程は、今までも多くの天文学者がモデルを提唱していたものの、上手く説明できずにいたものだ。それに、その観測していた星に対してだけだが説明することに成功したのだ。ちゃんと観測結果と照らし合わせ、見事に論文として完成したのである。 「恐縮です。しかしたまたま観測していた恒星にそのモデルが当て嵌まっただけということは否定できませんからね。もっと多くのサンプルを見つけたいところです」  自分が作ったモデルはまだまだ一般的なものとはいえない。そう自覚する天翔はより気持ちを引き締めなければとの思いに駆られる。どうしてクロスする二重の輪が出来上がるのか。他にも別の過程を経て同じような輪が出来たものが見つかっているだけに、それを一般的にモデル化することが出来れば大きな発見となる。
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