双子協奏曲

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 それは所長のご機嫌取りが目に余るというものだ。いわゆる腰巾着というヤツである。ことあるごとに雅之の機嫌を取り、気に食わないことがあれば告げ口をしているのではないか、というのがここにいる全員が感じていることだった。 「他と上手くやれているならば、どういう場所にもああいうタイプはいるからと目を瞑れるんだがな。その、最近は君に対して何かと言っているようではないか」  それは自分の気にし過ぎなのか。それを恭輔は確かめたいんだと天翔の顔を覗き込む。これは一概に否定できないものであるものの、自らそうですとはいえない問題でもあった。 「まあ、研究に支障はありません」  そう答えるのが無難というものだ。それにこの問題へ恭輔が下手に介入すれば事態をややこしくしかねない。今や研究ポストはどんな場所でも争奪戦だ。おそらくここに来て恵介が妙に雅之に取り入ろうと必死になったり天翔の悪口をこそこそ言っているのは、そういう事情を抱えてのことである。  というのも、天翔が任期付きのポストにいるということが厄介なのだ。任期はまだ一年以上残っているとはいえ、そろそろ次をどうするか考え始める頃だ。
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