双子協奏曲

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 例えば千佳が拾った場合、間違いなく中を確認しそうだ。触っただけでは定期の感触しかないし、他のものが入っているとは思わない。しかし千佳はきっちりとした性格をしている。持って来て中身に異常がないか、必ず確認させることだろう。しかも目の前でやるように要求してくるに違いない。定期しか入っていないと言っても聞かないことだろう。ということは、確実に中身を見られることになる。 「ああ。どうして落としたことを浜野に知られてしまったんだろう。津田より厄介だ」  こっそり千佳の方を見ると、千佳はパソコンと手元の資料を確認するのに忙しそうだった。すでに研究を始めていて、他のことは目に入っていないらしい。まさに研究者の鏡のような姿である。いつもならば自分もああなのになあと、憂鬱さがさらに増大してしまった。 「誰にもぼやけないから、余計にイライラすんだよな」  龍翔は思わず口を尖らせた。言えないとどうにも不満が溜まる。しかし、立ち上がったパソコンに向けてそう言っても何の解決にもならない。黙って聞いてくれるし秘密は漏れないが、解決策は提示してくれないのだ。 「はあ」  仕方なく気持ちを切り替えて仕事に取り掛かる。先ずはメールのチェックと受信ボックスを開くと、昨日の会議の議事録が届いていた。他大学に行っていたのはこの会議のためで、自らの研究をもう一段階進めるためだった。
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