双子協奏曲

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 が、問題はテーマだ。龍翔は一般相対性理論を専門としているくせにインフレーション理論にも手を出そうとしている。これを颯太がどう思っているのか。  インフレーション理論は困ったことに量子力学がメインのテーマだ。どちらも博士課程を修了するほどならば使いこなせるものの、やはりどちらが得意か偏りが出るものである。やりたいことと違うと文句を言われないだろうか。 「あれ、そう言えばいないな」  研究室の中を見渡すとまだ席が二つ空いたままだ。そこは研究員が使う席で一つは颯太の席、もう一つはここで正式な研究員をしている今井聖也の席だ。時計を確認するともう八時二十五分。そろそろ来ていい頃だ。 「まさか嫌になったとか」  思わずそんなことを気にしてしまうほど、後ろめたかったりする。宇宙論をやっていれば普通に考える問題だというのに、初めての経験というのは何かと気を遣うものだ。しかも自分は助教でまだまだの身分。助教といえば一昔前までは助手と呼ばれていた立場だ。偉そうにするのはどうかと思われる。  このインフレーション理論とは、かの有名なビッグバンの前にあったもので、宇宙が爆発的に膨張する現象を指す。もちろんビックバンも急な膨張なのだが、それだけは説明のつかないことを含んでいた。例えば、どうして宇宙は平坦に見えるのか。もしくはどこも同じように均一なのはなぜなのか。  この問いに答えられるのがインフレーション理論だとされている。しかしビッグバンは宇宙マイクロ背景放射というものであったことが観測的にも証明されているが、インフレーション理論はまだ観測結果が出せていない。いや、永遠に観測できない可能性もあるものだ。ここに来て有効な手段が見つかったと盛り上がっているので、龍翔も昔温めていた理論にもう一度チャレンジしたいと考えてしまったのだ。
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