双子協奏曲

8/164
前へ
/164ページ
次へ
「あれ?」  先に研究室のドアを開けた千佳が入り口で立ち止まってしまう。どうしたんだと龍翔も中を覗くと、龍翔の席で何かごそごそやっている奴がいた。下を向いていて顔はよく解らない。それにデスクトップのパソコンが邪魔だ。しかし、髪型や体格から男であることは解る。  ひょっとして定期入れを盗んだ奴なのか。このタイミングで誰もいない研究室でごそごそしているなんて怪しい。ひょっとして一回目で金目のものが手に入り、味を占めたのだろうか。そんな想像が頭の中に広がり、二人は思わず抜き足差し合いで部屋の中に入っていた。 「ううん。ここをこうして。いや、ダメだな。こっちが合わなくなる」  近づくとそんな声がする。二人はますます誰だという思いと怪しいとの思いが強くなった。他人の机の上でごそごそやっている。これほど疑わしいことはない。が、その疑いは犯人自らがすぐに晴らしてしまった。 「あっ」  ころころと転がるペンのキャップ。それを追うのは丸眼鏡が特徴の男。 「お前。また人の机で計算してたのか」  反射的に龍翔が怒鳴ると、その男はもそっと顔を上げた。そしてもうそんな時間かと悪びれる様子もなく笑う。机の上にはこの男が持ち込んだ様々な明細と電卓、そして帳簿と思われるノートが置かれていた。 「津田。お前は自分の机を片付けるということを覚えろ。というか、お前の研究室は工学部二号館だろ。わざわざ机を使うためだけに来るな」  机を勝手に占拠していたのは津田悠大という、工学部で研究をしている奴だ。こいつとは大学時代からなぜか仲が良く、こうして二人揃って同じ大学の研究者になってしまうという腐れ縁でもあった。しかし、使っている研究棟は違う。それに悠大の専門はロボット工学。間違ってもこの理学部の建物に用事があるとは思えない。
/164ページ

最初のコメントを投稿しよう!

58人が本棚に入れています
本棚に追加