双子協奏曲

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「いやあ。片付けても片付けても物が溢れ返るんだよな。それになぜかお前の机でやった方が集中できるんだよ。やっぱりこの研究室は計算ばっかりしているからかな。あ、何なら俺の机を貸すぞ」  ついでに綺麗に片付けてくれとまで言う悠大に、絶対にお断りだと龍翔は固辞する。それにどうして他人の机の片づけをしなくてはならないのか。しかも悠大の机の汚さと言えば、それはもう恐ろしいものでしかない。物や書類がミルフィーユのごとく積み重なっており、何かを抜けば雪崩を起こしてくるのは確実だった。 「あ、津田さん。それより友部先生の定期入れ、その机の上になかったですか。朝から見当たらないそうです」  そこに千佳が気を利かせてそう訊いてくれたのだが、龍翔からすれば最悪だった。ああ、最も知られたくない奴の一人に知られてしまったと、心の中で絶叫してしまう。絶対にこいつには中身を見られたくないのだ。見られた時の反応を想像すると、絶対に揶揄われると自信を持って言える。 「いやあ、定期入れなんてなかったぞ。お前が落とし物ねえ。珍しいな」  悠大はそんなことがあるのかと驚くが、千佳は珍しくないと言い張ることだろう。比較の違いなのだ。よく忘れ物や落とし物をする悠大から見れば珍しく、ほぼそんなことはしない千佳からすれば龍翔は忘れっぽい。要するに龍翔は平均的なのだ。 「見かけたら言ってくれ。クレジット機能はないもののICカードだし、ないと困る」  何だかどっと疲れたと、龍翔は悠大を追い払って机に着くと、大きな溜め息を吐いてしまった。
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