10人が本棚に入れています
本棚に追加
〇REC 2004/7/26 15:33:42
陽射しが厳しい都市部の公園。
猛暑日の今日、湿度も高いせいで人手はまばらだ。
10mほど離れた円形の噴水からは一定の間隔で高く水が吹き上がる。
そこで4歳くらいの女の子が、涼を取るのでなく遊ぶために水浴びをしていた。
「なっちゃーん、こっち見て〜」
母親らしき声がカメラの後ろから聞こえる。
なっちゃんがこちらに向かって大きく手を振る。楽しげな娘の姿に母親も微笑んでいる様子。
「わはははっ」
しばらく公園にこだまする笑い声。
1分経過。
声は止まらない。母親も娘もすでに笑っていない。
母親が異変に気づく。
「誰が笑ってるの?」
恐らく自分の後ろや周辺を見渡したのだろう。
娘から目を離した。
それが記録されていたのはわずか5秒程の時間だった。
「あはっはっはっはっはっはっはっはっは」
これまでで一際大きな笑い声。
画面右側からプロのスプリンター並の走力で麦わら帽子に白いワンピースの女が入り込んできた。
折れるくらいに動きまくる腕と脚が身体に対して異常な長さなのが確認出来る。
女は離れていてもわかる、深紅の唇で縁取られた笑みを浮かべ、頭を左右にブンブン振り回して脇目も振らず女の子の元へ。
朱色のハイヒールが脱げて、裸足になっても走り続ける。
「やっ、ちょちょっと、だれ…」
登場から2秒後、反応が遅れた母親がワンピースの女に気がつく。言葉はあやふやで、慌てて娘の方へ駆け出した。
ワンピースの女は、女の子を右腕で掴み拾ってそのままの速度で画面端に走り去っていく。
「アひゃヒゃひゃヒャひゃひゃヒゃひャひゃ」
連れ去る瞬間、ワンピースの女の狂声はより激しくなった。
「返して! なっちゃんを返して! …お願い!……おねがいだから…………」
必死に追いかける母親の悲痛な叫びが、誰もいない噴水広場に染み渡っていた。
最初のコメントを投稿しよう!